大阪高等裁判所 昭和49年(く)62号 決定 1974年11月20日
申立人(弁護人) 岸本五兵衛
主文
本件抗告はこれを棄却する。
理由
本件抗告申立の理由は、弁護人岸本五兵衛作成の抗告申立書記載のとおりで、要するに、被告人は、昭和四九年一一月二一日に韓国大田市において、かねて婚約中の女性と結婚式を挙げる予定であるから、右挙式に必要期間中勾留の執行の停止を求める申立を大阪地方裁判所になしたが、同裁判所はこれを却下した、しかしながら被告人は強い更生の意欲をもつており、被告人の父母ならびに在日韓国居留民団副団長も共に被告人の身柄確保に責任をもつ旨申出ているので、被告人には逃亡の虞はないから原決定は裁量を誤つた不当のものであるからこれを取消し、右挙式に必要な昭和四九年一一月一〇日から同月三〇日まで勾留執行停止の裁判を求める、というのである。
よつて、一件記録を検討するのに、被告人は、昭和四九年一〇月一五日原裁判所において窃盗、監禁、傷害、恐喝の各罪により懲役三年の実刑判決の言渡を受けて保釈が失効し、即日収監され、同日弁護人から保釈の請求があつたのに対し、原裁判所はこれを容れて同日再保釈許可決定をしたところ、大阪地方検察庁検察官は抗告及び裁判の執行停止を大阪高等裁判所に申立て、同裁判所は同年一〇月二五日右再保釈許可決定を取消し、前記保釈請求を却下したこと、弁護人は、昭和四九年一一月二日大阪地方裁判所に上申書をもつて、勾留執行停止の申立をなしたところ、同月七日同裁判所は勾留執行停止申立を却下する旨の決定をしたことが明らかである。
しかしながら勾留の執行停止は、裁判所が職権をもつてなすものであり、被告人からそれを要求する権利は訴訟法上認められていない。したがつて、被告人からは裁判所に対し勾留執行停止の申立をなし得ず、単にその職権発動を促し得るにすぎないのであり、裁判所は必ずしもこれに対して裁判をしなければならないものでないことはいうまでもない。しかるに原裁判所は、被告人からの勾留執行停止の申立を却下する旨の決定をなしているが、これは本来する必要のない却下決定をなしたのであつて、右決定は単に職権を発動しない旨を明示する以上の効力をもつものではないのであるから、右決定は刑事訴訟法四二〇条にいう「勾留に関する決定」にあたらず、被告人から右決定を不服として抗告を申立てる権利はないものと解するのが相当である。そうすると、原決定に対して右弁護人から抗告することができないことは明らかであつて、本件抗告は抗告権がないのになされたものであるからこれを棄却することとする。
よつて、刑事訴訟法四二六条一項前段により主文のとおり決定する。